Document ハンドブック・資料

1.抗がん薬取り扱い時の環境整備

病棟内で抗がん薬を調製したり、与薬の準備をする場合、作業環境を十分に整備しなければ直接作業を行う看護師だけでなく、周囲の医療従事者にも曝露が起こる危険性があります。アメリカ労働省職業安全局(OSHA)のガイドラインでは、曝露防止の最も重要な要素として生物学的安全キャビネット(以下、安全キャビネット)の設置を推奨しています。安全キャビネットにはクラスⅠ、Ⅱ、Ⅲの3種類がありますが、抗がん薬の調製・準備のためには内部の高い清浄機能を維持でき、100%の空気が屋外に放出されるクラスⅡタイプB2の安全キャビネットが推奨されています(図1)。近年では調製室内にもエアロゾルが排出されないよう密閉式の抗悪性腫瘍剤無菌調製用陰圧アイソレーターが使用されるようになってきました。
安全キャビネットを使用できない場合は、エアロゾルによる曝露を防ぐために、より厳重な環境の整備と優れたテクニックが必要となります。作業場所には①換気装置や流し台があり、②他の薬剤を調製・準備する台から離れ、③人通りのない所を選ぶことが重要です。抗がん薬の調製・準備区域に危険を警告するラベル(「危険!」等)を貼り、周囲の人に危険を意識づける必要があります。
2.1.安全キャビネットにおける混合調製
必要物品
防護具(手袋2双、マスク、ガウン、保護メガネまたはフェイスシールド、キャップ)、吸収性シート、薬剤および混合・調製に使用する注射器・注射針、点滴バッグ、廃棄容器(耐貫通性容器、密閉式プラスチックバッグ等)。
作業手順
手洗い後に防護具を装着します。吸収性シートを作業台に敷き、その上に調製・準備に使う物品を置きます。安全キャビネットの内側で抗がん薬を調製・準備します。
終了後、使用済の注射針とガラス片は耐貫通性の廃棄容器に、それ以外のすべての使用物品は外側の手袋と共に密閉できるプラスチックバッグに入れて封をします。全てのゴミを有害薬剤専用の廃棄容器に棄てます。ガウン、残った手袋、マスク、キャップ等の防護具をはずして有害薬剤専用の廃棄容器(図2)に棄てて手洗いをします。

2.2.安全キャビネットがない場合の混合調製
必要物品
安全キャビネットを使用する場合と同様とし、さらに抗がん薬がこぼれた時のためのスピルキット(Ⅲ-4 抗がん薬がこぼれた時の対処 参照)を準備します。
作業手順
抗がん薬の調製・準備区域に危険を警告するラベルを貼り、部外者が入れないようにします。手洗い後に防護具を装着し、吸収性シートを作業台に敷いて物品を使いやすいように並べます。抗がん薬を調製・準備します(Ⅲ-3 抗がん薬の準備、与薬、終了後の処理 参照)。
終了後、使用済の注射針とガラス片は耐貫通性の廃棄容器に、それ以外のすべての使用物品は外側の手袋と共に密閉できるプラスチックバッグに入れ封をします。すべてのゴミは有害薬剤専用の廃棄容器に棄てます。ガウン、残った手袋、マスク、キャップ等の防護具をはずして有害薬剤専用の廃棄容器に棄てます。作業者は手洗いに加えて十分なうがいを行う必要があります。
2.3.安全キャビネット内や作業台の清掃
安全キャビネット内や作業台の清掃には、抗がん薬を不活性化するために次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)を使用します。次亜塩素酸ナトリウムは金属を腐食させる作用があることから、さらにチオ硫酸ナトリウム溶液(チオ硫酸ソーダ・ハイポ)による清拭を行って中和します。
必要物品
2%次亜塩素酸ナトリウム、1%チオ硫酸ナトリウム溶液、ガーゼ、廃棄用の密閉式プラスチックバッグ、防護具(厚手の手袋、マスク、ガウン、保護メガネまたはフェイスシールド、キャップ)
清掃方法
清掃者は防護具を装着します。安全キャビネットの場合は送風させたままとします。2%次亜塩素酸ナトリウムを含ませたガーゼで内部表面や側面の壁など、汚染が最も少ない上方から、より汚染されている下方へ向かって清拭します。次に1%チオ硫酸ナトリウム溶液を含ませたガーゼで上方から下方へ向かって清拭します。作業台の場合は2%次亜塩素酸ナトリウム、1%チオ硫酸ナトリウム溶液の順で作業台表面を清拭します。清掃に使用したガーゼや手袋は密閉できるプラスチックバッグへ、着用した防護具は有害廃棄物容器へ廃棄します。
2.4.防護具の活用

抗がん薬の取扱い作業には、薬剤への接触を防止するために手袋、マスク、ヘアキャップ、ガウン、保護メガネ・フェイスシールドなどの防護具を装着します(図3)。
(1)手袋
手袋は視覚的な傷がなく厚手でパウダーフリーのものを使用します。ニトリル製のものが推奨されています3) 。手袋を二双準備し、内側の手袋はガウンの袖口の下に入れ、外側の手袋はガウンの袖口の上にするように装着します。
(2)マスク
サージカルマスクではエアロゾルや気化物質の吸入を避けることはできないため、微粒子対応のN95またはN99規格のマスクが望ましいとされています。
(3)保護メガネ・フェイスシールド
抗がん薬の飛沫から目を保護するため、使い捨ての保護メガネかプラスチック製フェイスシールドを使用します。
(4)ガウン
抗がん薬の飛沫による衣服の汚染を防止するため、使い捨てのガウンを着用します。ガウンはポリエチレンかビニールコーティング等の透過性の小さい素材で作られた、背開きの長袖で、袖口が伸縮性のあるものにします。
(5)ヘアキャップ
抗がん薬の飛沫による頭髪の汚染を防止するため、使い捨てのヘアキャップを装着します。ヘアキャップは透過性の低い素材のもので頭髪を完全に覆うことができるものを使用します。
(6)防護具の外し方と廃棄方法
上記の防護具は密閉式プラスチックバッグに入れて密封してから、有害薬剤専用の廃棄容器に棄てます。防護具を外すときは、まず二重にはめた手袋の外側の1枚を脱ぎ、抗がん薬が付着した可能性のある部分を内側にして廃棄します。次にガウンの抗がん薬が付着した可能性のある部分を内側に折りこむようにまとめて廃棄します。ヘアキャップ、マスク、保護メガネは抗がん薬が付着した可能性のある面に触れないように外して廃棄します。最後に内側の手袋を脱ぎ廃棄します。
引用文献
- 石井範子編:看護師のための抗がん薬取り扱いマニュアル第2版、ゆう書房、32、2013
- 石井範子編:看護師のための抗がん薬取り扱いマニュアル第2版、ゆう書房、25、2013
- Oncology Nursing Society: Safe Handling of Hazardous Drugs, second edition, Pittsburgh: ONS, 2011; p39
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