Case report ケースレポート
fORum Vol.05
手術用手袋の穿孔率を通して考える
医療従事者のリスクと対策
Introduction
手術用手袋の使用は、医療従事者と患者との間における病原微生物の伝播経路遮断が主たる目的であり、医療従事者の血液・体液曝露、患者の手術部位感染のリスク制御のために使用される。病原微生物の伝播経路を遮断するため、手袋にわずかな損傷もあってはならないが、実際には手袋製造時のAcceptance Quality Limit:合格品質限界(以下AQL)として、本邦の手術用手袋はJIS 規格でAQL 1.5と定められており、使用開始時にすでに4%以下程度の穿孔が存在することが知られている。
さらに、手術中に針刺しや手袋自体の劣化により穿孔が発生することは多く、穿孔率は数%~30%と文献により大きく異なっている。これら穿孔率の差は、骨などの硬い組織に触れる整形外科手術や開胸手術と、硬い組織に触れない腹腔内手術など、手術部位による違いや手術手技、手袋装着時間などの差が関係していると考えられる。整形外科や脳神経外科、心臓血管外科など、骨を直接触るような手術では22%~25%、泌尿器科では16%、消化器外科においては7%と報告されている。
消化器外科では、これまで手術用手袋の穿孔率に関する検討は、その大部分が開腹手術での報告であり、内視鏡外科手術が普及している現状において鏡視下手術での手袋穿孔の検討はほとんど行われていない。
小林美奈子先生は外科医として医師のキャリアをスタートし、日本外科学会、日本消化器外科学会、日本大腸肛門病学会、日本消化器病学会、日本消化管学会等の外科系、消化器系の各種専門医、指導医だけでなく、ICD(インフェクションコントロールドクター)、抗菌化学療法指導医、外科周術期感染管理教育医等の感染症関連の資格を有する。現在は感染制御医として活躍されており、小林先生はその幅広いキャリアを通じて、手術用手袋の穿孔に対する興味や疑問から、消化器外科領域における開腹手術・鏡視下手術時の手袋穿孔率を比較検討し、さらに二重手袋装着の有用性に関する検討を行った。その結果とそこから導き出される課題や展望について紹介したい。
INDEX
- 手術用手袋に起こる穿孔は患者・医療従事者双方にリスクがある
- 消化器外科領域において開腹手術・鏡視下手術別による手袋穿孔率や血液汚染率に有意差はない
- 80%以上の手術で『誰かの』手袋が穿孔している!
- 手術用手袋の穿孔を防ぐために60分~90分ごとのアウター手袋交換が推奨される
- 医療関連感染防止に重要な手術用手袋の二重装着
- アンダー手袋の交換は必要か?
- 手術用手袋に関連して見逃せない手荒れの問題と対策
- 二重手袋と手術中の手袋交換が『当たり前』になることが理想
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