Document ハンドブック・資料

抗がん薬の与薬方法には、注射法、経口法、塗布法などがあります。曝露の機会となりうる行為を認識し、抗がん薬の取り扱いの際には、曝露防止のための環境整備を行い、防護具を用いて正しい手順で実施することが重要です。そして目に見える抗がん薬のこぼれを防止するだけでなく、エアロゾルを極力発生させないことや、抗がん薬がどこに付着しているのかを常に意識して慎重に実施し、与薬終了後にも廃棄物からの曝露も考えて処理することが大切です。
どのような与薬方法においても、薬の準備・与薬・終了後の処理の際には、次のように取り扱います。
- こぼれた時迅速に処理できるよう、スピルキットまたは専用の物品を準備しておく
- 取り扱いの前後には、流水とせっけんで手洗いをする
- 抗がん薬を取り扱う前に防護具を装着する
- 準備した抗がん薬や終了後の廃棄物は、密閉式プラスチックバッグに入れて持ち運ぶ
- 抗がん薬の準備、与薬に用いた廃棄物は、廃棄物からの漏れや気化した抗がん薬からの曝露を防ぐため、注射器などの鋭利な物品は耐貫通性の針捨てボックスへ廃棄し、消毒綿や防護具などの物品は密閉式プラスチックバッグに入れて、蓋付きの抗がん薬専用廃棄ボックスに廃棄する
- 与薬に使用した備品(処置台、輸液ポンプ、点滴スタンドなど)や、ベッドサイドの汚れは、手袋を着用し、2%次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)と1%チオ硫酸ナトリウム溶液で拭く
ここでは、点滴静脈内注射法の抗がん薬取り扱いを中心に、概要を説明させていただきます。他の方法や、より詳しい手順や説明が必要な方は、「看護師のための抗がん薬取り扱いマニュアル」1)をご参照ください。
1.抗がん薬の準備における曝露対策抗がん薬の調製
調製時には、高濃度の薬液に曝露する危険性がありますので、Ⅲ-2でお伝えしているように、防護具を装着し、安全キャビネット内で、吸水性シートを敷くなど環境を整えて行います。安全キャビネットがない場合は、人通りの少ない換気装置のある調製台で、他の薬剤の調製とは分けて実施します。
抗がん薬の調製 必要物品
- 抗がん薬
- ルアロック式注射器(薬液量が十分入るサイズ)と注射針
- 点滴バッグ(注射器で抗がん薬を持ち運ぶ場合は、ルアロック式筒先キャップ)
- 防護具(図1)
- 吸水性シート
- 消毒綿
- 密閉式プラスチックバッグ
- 耐貫通性の針捨てボックス
- 蓋付きの抗がん薬専用廃棄ボックス

(1)アンプルから抗がん薬を吸い上げる時のポイント
曝露の機会となるのは、アンプルカット時、アンプルを倒したときのこぼれ、注射器の空気を排出する時、針を外す時、アンプルの残薬のこぼれなどです(図2)。

重要な手順
- アンプルの先端に溜まった薬液は下方に落とし、アンプルを立て1分間ほど静置して実施する。
- アンプルカットは、けがと薬液の飛び跳ね防止のために、消毒綿で覆って行う。
- 注射器内の空気を排出する時や、注射針を取り外すときは、注射針の中に抗がん薬が残らないように薬剤を注射器の中に引いてから行う。
- 静脈内注射などの場合は、針を外して注射器の先に筒先キャップを付け、密閉式プラスチックバッグに入れ、抗がん薬であることが一目でわかるように専用の警告ラベルを付ける。
- アンプルの残薬は注射器に吸いとり、ルアロック式筒先キャップを装着し廃棄する。
(2)バイアルから抗がん薬を吸い上げる時のポイント

バイアルには散薬と水薬がありますが、曝露の機会となるのは、いずれもバイアル内が陽圧となった時のバイアルのトップに開いた針穴からの抗がん薬のこぼれ・エアロゾルや、注射器の空気を排出する時、注射器の針を外す時などです(図3)。
抗がん薬の曝露を防ぎバイアルから薬剤を取り出すデバイスが各社から販売されており、これらを使用することが推奨されます。これらのデバイスを使用できない場合には、いずれもバイアル内が陽圧とならないように最大限の注意を払う必要があります。
重要な手順
- 注射器には、取り出す薬液量よりやや少なめの空気を入れて準備する。
- コアリングを予防するため、バイアルは調製台に置き、針を垂直に刺す。
- バイアル内の空気を少量吸い上げて少し陰圧にし、注射器内の空気とバイアル内の抗がん薬が自然に少しずつ交換するように吸い上げる。
- 散薬に溶解液を入れる時も、決してバイアル内が陽圧にならないよう、まずバイアル内の空気を注射器で吸引し、自然に少しずつ溶解液と空気が入れ替わるようにする。
- 針穴からの抗がん薬漏れを防止するため、散薬を溶解する場合は、バイアルから注射器を外さないで実施する。
- バイアルから針を抜く時には、少量の空気を注射器に吸い上げ、バイアル内を少し陰圧にして抜く。
- 注射器内の空気を排出する時や、注射針を取り外すときは、注射針の中に抗がん薬が残らないように薬剤を注射器の中に引いてから行う。
- 静脈内注射などの場合は、針を外して注射器の先に筒先キャップを付け、密閉式プラスチックバッグに入れ、抗がん薬であることが一目でわかるように専用の警告ラベルを付ける。
(3)抗がん薬を点滴バッグに注入する時のポイント

曝露の機会となるのは、点滴バッグの薬液注入口に注射器の針を刺入する時・抜く時、バッグ内が陽圧になることによる薬液注入口の針穴からの漏出などです。
抗がん薬の曝露を防ぎ薬液を注入できるデバイスが各社から販売されており、これらを使用することが推奨されます。これらのデバイスを使用できない場合には、特に漏れがないように十分注意します。
重要な手順
- コアリングを予防するため、注入口に針を垂直に刺入する。
- 点滴バッグの薬液注入口に注射器の針を刺入する時に、誤って押子が押されないよう十分注意する。
- 点滴バッグ内を陽圧にしないため、バッグ内の空気を少量吸引し、注射器内の薬剤と交換するように注入する。
- 薬液注入後は、針内の抗がん薬が漏出しないよう、点滴バッグ内の空気を少し吸引してから針を抜く。
- 薬剤注入後、点滴バッグの注入口は専用シールかキャップで覆う(図4)。
- 見えない漏れをふき取るため、点滴バッグの外側を蒸留水のガーゼで拭く。
- 準備が完了した点滴バッグは、密閉式プラスチックバッグに入れ、抗がん薬であることが一目でわかるように専用の警告ラベルを付ける。
2.点滴静脈内注射の準備

曝露の機会となるのは、点滴バッグと点滴セットの接続時、点滴セットのプライミング時などです(図5)。
ルートの接続が外れるのを防止したり、点滴セットからの抗がん薬漏れを防止する閉鎖式与薬関連製品が販売されています.それぞれの製品特性、使用方法を正しく理解して、用いることが推奨されます。専用の物品を使用できない場合は、点滴セットは接続部がロック式で、補助バンド付きのものを用いる必要があります。

また、抗がん薬の入った点滴バッグに点滴セットを接続する場合、抗がん薬でルートをプライミング(充填)することは、抗がん薬漏れのリスクが非常に高いため絶対に行ってはならない行為です。抗がん薬入りの点滴バッグと点滴セットの接続の方法は以下のどちらかの方法で行います。
- 抗がん薬の入っていない点滴用剤で、点滴セットをプライミングした後、吸水性シートを敷いた処置台の上で、抗がん薬入りのバッグの注入口を上にして垂直に刺入する
- 抗がん薬の入っていないメインの輸液で、点滴セットをバックプライミングする(図6)。
3.抗がん薬与薬における曝露対策
(1)点滴静脈内注射の実施のポイント
注射法による与薬において曝露の機会となるのは、各接続部からの漏れ(点滴バッグ-点滴セットのビン針、点滴セット-メイン点滴の側管口)、点滴バッグ注入口からの漏れなどです。
抗がん薬点滴バッグのビン針の刺入や抜去は、抗がん薬のエアロゾルや液だれを生じ、曝露の危険性が非常に高いので、抗がん薬のバッグごとに新しい点滴セットを用いることが推奨されます。特に抗がん薬入り点滴バッグを点滴スタンドに掛けたまま、ビン針を抜去・刺入することは、抗がん薬が漏れる原因となるため絶対に行ってはならない行為です。
やむを得ず、抗がん薬のビン針の差し替えをする場合は、患者から離れた足元に設置した台の上で行います。台の上に吸水性シートを敷き、点滴バッグの注入口を上向きにして、ビン針を垂直に抜去、刺入するようにします。
また、点滴セットを側管注入口から取り外す際には、微量な漏れの危険性があります。終了後の抗がん薬の点滴セットはできるだけ側管注入口から外さず、メインルートに接続したままにして、メインの点滴が終了した時に一緒に廃棄することが望ましいとされています。レジメンの都合などによりメインルートから抗がん薬点滴セットを外す場合には、抗がん薬が接続部に残らないように、抗がん薬以外の輸液をバックプライミングした後、それを滴下してから吸水性シートの上で外すようにしましょう。
重要な手順
- 抗がん薬入り点滴バッグのビン針が確実に刺入されていること、ラインが確実にクランプされていることを確認する。
- 確保した点滴ルートの下に、吸水性シートを敷く。
- 抗がん薬点滴バッグのビン針刺入部からの漏れを防ぐため、ビン針刺入部に滅菌ガーゼを当てながら点滴バッグを逆さにして、点滴スタンドに掛ける。
- 確保した点滴ルートに点滴セットを接続し、確実にロックする。
- 滴下速度を調整し、抗がん薬が点滴バッグのビン針刺入部や接続部から漏れがないことを確認する。
- 目で確認できない抗がん薬の飛び跳ねや漏れをふき取るため、水で濡らしたガーゼでラインを患者の接続部から、点滴バッグに向かって拭く。
- 残った抗がん薬は点滴バッグに入れたまま、バッグをつぶしたり切断したりしないで廃棄する。
- 点滴が終了し取り外した点滴バッグは点滴セットをつけたまま、吸水性シートとともに密閉式プラスチックバッグに入れ、耐貫通性の廃棄容器に捨てる。絶対に点滴ルートを切断しない。
引用文献
- 石井範子編,看護師のための抗がん薬取り扱いマニュアル-曝露を防ぐ基本技術-第2版,ゆう書房,2013
- Occupational Safety and Health Administration:Work practice guidelines for personnel dealing with cytotoxic(antineoplastic)drugs. Am J Hosp Pharm 1986;43:1193-1203.
- American Society of Hospital Pharmacists:ASHP Technical assistance bulletin on handling cytotoxic and hazardous drugs.Am J Hosp Pharm 1990;47:1033-1049.
- Oncology Nursing Society.Safe handling hazardous drugs.Pittsburgh:ONS,2003;1-56
- 日本病院薬剤師会監,抗悪性腫瘍剤の院内取扱い指針,抗がん薬調製マニュアル 第3版,じほう,2014
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