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3-5.抗がん薬がこぼれた時・曝露された時の対処

抗がん薬取り扱いと曝露対策

筆者

秋田大学大学院 医学系研究科
保健学専攻 基礎看護学講座 助教
菊地 由紀子 先生

1.抗がん薬がこぼれた時の対処法

  抗がん薬入りの点滴がこぼれた場合は、周囲にいる人へ曝露を広げないために警告標識を表示し、防護具を着用してただちにこぼれた区域を清掃します。防護具の内容は二重の手袋、ガウン、マスク(N95またはN99)、フェイスシールド、へアキャップなどです。必要な防護具はスピルキットとして、警告標識や吸水性シートなどもまとめてセットしておく必要があります。市販されているものもあります。こぼれが発生したら、ただちに適切な処理が行えるよう、スピルキットは抗がん薬の保管、準備、与薬するどの場所にも設置しておき、さらに抗がん薬を取り扱うすべての職員に処理方法を周知し、訓練しておく必要があります。在宅で抗がん薬の治療を受ける患者にもまた、処理方法を理解してもらう必要があります。

安全キャビネット内でこぼれた場合の処理

 こぼれた分量が少ない場合は、吸水性シートに吸収させてから拭き取ります。粉末や顆粒の場合は、水で濡らした吸水性シートに吸着させて吸い取ります。アンプルの破損などによって鋭利なものが混在している場合は、プラスチック製スコップなどで収集してから、耐貫通性の廃棄容器に捨てます。

    抗がん薬の入った点滴などが150mL以上、または1バイアル以上の薬液がこぼれた場合は薬剤が残存している可能性があるため、フード内を清掃した後、安全キャビネット全体を清掃します。HEPAフィルター(high efficiency particulate air filter)を汚染した場合は、清掃を行なった後にHEPAフィルターを交換する必要があります。HEPA フィルターの交換は専門技術者によって行われるため、交換が終了するまでは汚染された安全キャビネットを使用禁止とします。

安全キャビネットの外でこぼれた場合の処理

  抗がん薬が作業台や床などにこぼれた場合は、吸水性シートでこぼれた薬液を吸い取り、その区域を水と家庭用床洗剤で3回洗浄後、最後に吸水性シートやタオルなどで吸い取ります。カーペットにこぼれた場合は、パウダー状のカーペット用洗剤をこぼれた箇所に撒き、洗剤に薬液を吸収させ、掃除機を用いてパウダーごと取り除きます。掃除機表面は2%次亜塩素酸ナトリウムで清拭した後に収納します。使用した防護具や吸水性シート、掃除機に吸引されたゴミのパックなどは、密閉式プラスチックバッグに入れて有害廃棄物として処分します。

    抗がん薬が付着した医療廃棄物やこぼれの処理に使用した物品、および治療終了後48時間以内の患者の排泄物や吐物で汚染された廃棄物は、これを介して周囲に汚染が広がることがないように、最終処分を行うまで厳重に取り扱う必要があります。病院で定められたマニュアルなどに従って処理されるまでは、耐貫通性の廃棄容器に保管します。医療従事者のみならず医療廃棄物を取り扱う清掃作業員や廃棄業者にも周知し、安全な取り扱いを徹底する必要があります。

2.曝露された時の緊急対応

 抗がん薬の曝露が発生した場合、有害な影響を最小限にするために迅速かつ適切に対処する必要があります。

皮膚や眼に接触した場合

 抗がん薬が付着した皮膚や眼は直ちに十分な水で洗い流します。皮膚に付着した場合は、石けんも使用して洗浄します。眼に入った場合は、専用の洗眼器で眼を傷つけない程度の水圧で洗い流します。洗眼器がない場合は、洗面器に水道水をかけ流ししながら、眼をまばたきさせ、十分に洗浄します。そして、洗浄後は必ず医師の診察を受けます。抗がん薬を取り扱う場所には、速やかに洗浄できるように洗面台や洗眼器を設置しておく必要があります。

エアロゾルを吸入した場合

  口から抗がん薬のエアロゾルを吸入した場合、直ちに十分な水道水でうがいをします。鼻腔から吸入したときは鼻洗浄の処置が必要です。そして、洗浄後は必ず医師の診察を受けます。

    マスクを装着していても、抗がん薬の混合調製時にはエアロゾルを吸入している可能性があるため、実施後は必ずうがいを行います。

抗がん薬の治療に使用した注射針を誤刺した場合

 注射針の刺入部を絞って薬剤が入っていないかを確認します。薬剤が入っていない場合でも針が刺さった箇所は消毒します。薬剤が入っている可能性がある場合は、医師の処置を受ける必要があります。処置の一般的な方法として、ステロイド剤を針が刺さった傷口の周囲から中心部に向かって皮内・皮下へ注射し、注射後に外用ステロ イド軟膏を塗り、生理食塩水などで冷湿布します。これまで湿布として用いられてきた0.1%アクリノール液(リバノール)は、抗炎症作用がないことや、アクリノールの過敏症状や副作用もあることから使用することは勧められません。

    抗がん薬曝露時の緊急対処法については、抗がん薬に接触した部位や経路別に緊急対応、緊急連絡先などを明記したプロトコールを作成し、取り扱う場所に掲示すると同時に、抗がん薬を取り扱う人々に十分周知することが重要です。 

    また、個々の曝露の状況を後で確認するためにも、インシデントまたはバリエンスレポートを作成し保管します。曝露した職員の健康診査やその後の健康管理、今後の防止対策などについても組織的な体制を整えておく必要があります。

引用文献

  1. American Society of Hospital Pharmacists:ASHP Technical assistance bulletin on handling cytotoxic and hazardous drugs,Am J Hosp Pharm,47:1033-1049,1990.
  2. 2石井範子編:看護師のための抗がん薬取り扱いマニュアル;曝露を防ぐ基本技術,第2版,ゆう書房,2013.
  3. Yodaiken RE:OSHA Work practice guidelines for personnel dealing with cytotoxic (antineoplastic) drugs,Am J Hosp Pharm,43:1193-1203,1986.
  4. 石田陽子・他:薬剤漏出による皮膚組織傷害に対するアクリノール湿布の 効果に関する実験的研究,日本看護技術学会誌,3(1):58-65,2004.

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